まずはこれ「輝く断片」シオドア・スタージョン

まずはこれ。シオドア・スタージョンの「輝く断片」。

スタージョンという人は大体SF作家なのですが、この日本独自の短編集ではミステリ系ばかりを集めております。大好きな作家さんなんですが、正直言うとこの人のはSFよりミステリ系の方が好きです。多分あんまり科学知識の無い人だと思う。

んでこれ。基本的に入っているのは、ミョーな味わいの下らんナンセンス系と、死ぬほど切ない系に分かれております。これが名品ばかりで、選択した方が一番偉い、と思えるくらい。個人的には「君微笑めば」から先は皆切ないと思います。

一個だけ話を上げると、「マエストロを殺せ」。主人公はブサイクでぱっとしないMC。んで彼がついてるバンドのリーダー、ラッチは男前で演奏がうまくて、性格もまあ、いい奴。人当たりがよくて天才で、面倒見もよくて。それに比べて主人公はどちらかというと陰気、それもMCという仕事のせいかどうにも卑屈な男です。んで、彼らのバンドのピアニストがやめてしまい、かわりに女の子のピアニストが入ってくるんだけど、主人公はすっかりこの子にのぼせ上がってしまう。でも女の子はすっかりラッチに夢中。それをきいて主人公はラッチを殺すことを決意する。

どうもこれ以上かくとネタバレになってしまうんだけど、主人公の気持ちがすっごくリアルです。ラッチみたいに何もかも完璧に見える人間っていて、でそういう人に限ってちょっとしたはみ出しものとか、卑屈な人間に対して何か手を伸ばしてくるんだよね。でもそういうのがやられるほうは苦痛に近くて、バカにされてるような気分になる。主人公は本当に陰気で、嫌な奴でもあるんだけど、少なくとも個人的にはとても感情移入できました…よ。

あと言い忘れてましたがこれ、ジャズ小説です。またこの描写が凄くて、メンバーの演奏が伝わってくるよう。メンバー一人一人の個性までばっちりかかれてるんで、バンド小説としてもかなりの完成度。楽しめます。またラッチがなかなか死にやがらねえんですよコイツ…。

他にも、書類で決まる社会っていうのを、溶け込めない頭の弱い男の視点から皮肉っぽく、おまけに悲しくかいた「ルウェリンの犯罪」も凄いです。

主人公ルウェリンは、周りの男達が罪を犯してることを(今日あのスケとヤッタんだぜえとかいう感じ)自慢げに話すのをきいて、自分も何かしら、秘密の罪を持たないと考えてるわけです。そんなことを真剣に考える主人公が笑えるなあ、と思ってますと、あれよあれよという間にいろんなことに巻き込まれ、意外な展開になります。そしてラストは…泣けますなあこれも。

この短編集に入っている、切ない話はどれも、何かしら悲しみや怒りを持つ主人公達の周りにいるのは比較的普通の人たちです。主人公に悪意ももってません。それどころか思いやりさえする。けどそれが主人公には重荷になる。なにかのため、といって手を伸ばしてくる人間と、自分はここにいたいんだと静かに思い続ける人間と。後者は所謂「生まれたことが失敗」て人間なんですね。生きてる世界が違いすぎて、何をやっても傷ついたり傷つけたりしてしまう。

基本的にちょっと特殊な、繊細すぎる人間が主人公であることが多いんですが、そうした要素を少しでも持ってる人なら誰でも彼らに共感できると思います。切ない話を読みたいけどクサい奴はちょっと、話も面白くないとねえ、という人や、純粋に奇想作品好きな人にもお勧めできます。捨て作品のないまさしく傑作短編集。

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