というわけで、スタージョンの新訳キタキタ―!という割に姉に言われて初めて気付き購入しました。
本当にもう最近河出頑張りすぎなんですよ。幻想とSFで頑張りすぎ。いい出版社だ。
まあ兎も角、この奇想コレクションのスタージョンシリーズも3弾目となるわけです。
最初の『不思議のひと触れ』が2003年、『輝く断片』2005年。結構立て続けにでたところから、現在スタージョンはちょっとしたブームなんじゃないかと予想。
さてこのスタージョンシリーズ、前回までは編者は大森望さんでした。もうスタージョンヲタの中のスタージョンヲタともいえる人ですが、前回の二つは両方とも彼なりのテーマが感じられる選集でした。
輝く断片はSFファン以外にむしろ心に訴える、ちょっと悲しい結末を招くミステリ系。不思議のひと触れは幻想系の美しさと、スタージョンお得意のちょっと理想主義だけれども、思わず憧れてしまう奇跡のラストを持った作品集。
そして今回の編者は若島正さん。晶文社の『海を失った男』を訳した人です。今回もテーマが設けられていて、あとがきを見ると、あまりに特異なので「スタージョンだと読んで一発でわかってしまう」もの、という、スタージョンの中でも特に個性派をそろえたようなのです。
といっても、今回の個性派は今までのような『ヘン』な小説とは一線を画しているように見えます。『昨日は月曜日だった』『‘ない‘のだった!本当だ!』のような、考え方そのものが奇想、というよりも、視線の向け方、何気ないことへの思考の転換が個性につながっているような作品が多いような。(スタージョンは結構根元のプロットを見ると、かぶってる話も多いんですよね。アレンジするだけで)
とりあえず私が一回とおしで読んで一番気に入ったのは『必要』。
今まで誰かが必要としたから、これからも誰かが必要とするだろう、という信条に基づいているある種の店(「『すべて』ではなく『なんでも』が売っている」、と表現されています。つまり、大手のあらゆるものが揃うストアではなく、なんでもかんでもごちゃまぜに売っている、万屋のような店なんですね)の店主、Gノートと、口が悪く人を不愉快にさせずに置けないゴーウィング。
物語は彼らにスミスという男が追いはぎにあう所から始まります。スミスはほうほうのていで家に帰りついた挙句、電話が通じなかったという理由で奥さんのエロイーズに浮気の疑いをかけ、非常に冷たい扱いをしますが…。
Gノート(スタージョンによくある心は優しいけどブサイク)が凄いいい人なんですよねえ。ものづくりの達人でもあって、その表面ががさがさになっているだろう手を思うと心がほっこり暖かくなってしまいます。
ゴーウィングも、最初はその性格の悪さが非常に不愉快なんですが、読んでいるとその心に秘めた苦悩が明らかになっていきます。個人的には私がスタージョンと聞いてイメージするのは、この手の作品。
(ちなみにこれ、帯の文章が猛ネタバレです。読まないように注意。)
他にも普通小説風のものもあって、『帰り道』『午砲』がそう。特に『午砲』はスタージョンの少年時代をもとにしたものらしく、やっぱこの人自身もこういうちょっと繊細で、アメ公らしくない思考の持ち主だったんだなあと思いました。内容自体もタイトルの理由も含めて、人物の会話の間に人間性がにじみ出ていていい。今まで紹介されてきた作品の中では珍しいタイプです。
で、やっぱりこれのメインは表題作。タイトルも長いですが内容も長く、長めの中編ぐらいあります。内容としては同じ下宿にくらすそれぞれ個性的な人物が、宇宙人のある実験に使われ、それによって変わって行くという、スタージョンにしては結構ベタな展開となっています。(この『実験』自体がかなりかわってるんですがそれは読んでいただくとして)
自分の家柄ばかり気にしているオバニオンと、何故かその偏屈と仲良しな子供、ロビンとその母親、ハリウッド女優という狭き門をくぐることが夢だが何一つ前進せず、常にイライラしているホーント、そのホーントとぶつかり合っていつもびくびくしている臆病な女性、ミス・シュミット。
そして特筆すべきは、何もかもを理詰めに考える能力をもった職安職員、ハルヴォーセンかと思われます。彼は最近常に『死にたい』という欲求に駆られ、『何で死にたいんだろう』と疑問を覚えます。彼は自分が不適格だと思っており、その理由は彼が、猥褻な広告や性的な映画、そうしたものにまったく興味をもてないからで、そのために生きていてはいけない人間だと思い込んでいるのです。
スタージョンの小説には不適合者というのはよく出てきますが(そしてそれは大抵孤独で、それが奇跡にであったり、もしくは改心できないまま不幸な結果をたどることもある)、アセクシャルの人間はあまりいないのでは、と巻末で若島さんも解説しています。
この小説の人物達は、そもそも自分の欠点の原因に殆ど気付いていない。そうしたことさえ考えたことが無いんです。しかし宇宙人の介入により、彼らはそれを『自分で』見つけ出す。自分自身というものに対して初めて「悩む」。そしてそのもやもやを抱いた時、ある出来事が起こると、まったく今までとは違った行動をとるようになるんです。
ハッピーエンドの優しい話に、スタージョンらしい奇想が加わって(『偶然と思われたことが偶然ではない』という発想の転換)なんとも読後感のいい小説になっています。ちょっと長すぎで途中ダレるし、最後、たいしたヒントもなく、答えを導き出してしまうオバニオンには笑ったけど(何者だコイツ。コイツこそ宇宙人じゃないのか)やっぱり力作。
他にも『火星人と脳なし』はタイトルまんまの話で、ユーモアたっぷり。笑えます。『解除反応』は記憶喪失をテーマにした作品で、主人公のここがどこかわからない躊躇いがこっちにも伝わってきます。(どうでもいいけどこの記憶喪失になってしまったトリックが何べんよんでも理解できません…なんだあの説明…)
全体としては今までの2作よりちょっとパンチに欠ける気がしましたが、相変わらずの変化球と泣ける人物描写で最後まで目が釘付けでした。ありがとうスタージョン。ありがとう若島さん。
あと最後に。スタージョンブルドーザー好き過ぎだろ。
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